[PR] 看護師 求人 サムライロックエーゲルss 『あまくてにがい』

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エーゲルss 『あまくてにがい』

あまくてにがい




「呑むなとは言わないが、ほどほどにしろよ」
「いつもほどほどだよー」
「部屋が酒くさい」
「そうかな」
 明日の作戦行動を伝えにきたトゥルーデが、例によって顔をしかめたのは、エーリカの部屋が例によって渾沌をきわめていたせいでは無かったらしい。
「だって、特におもしろいこともないし」
「…まあ、確かにそれはそうかもしれないが」
そこから先は、お決まりの「カールスラント軍人たるもの」が始まったので、適当に聞き流した。
なんどそうやって聞き流しても、トゥルーデはテープレコーダーのようにくりかえすので、エーリカはベッドからちょっとだけ体を乗り出して、テーブルの上のワインを半分空いたグラスになみなみと注いだ。
そのしぐさに眉間の皺をいっそう深くして、エーリカが聞き流しているのをそれで改めて理解したのかトゥルーデはこほん、と小さく咳払いをした。

「人によってアルコールの消化量というのがあってだな」
それは初めて聞くバリエーションだ。
「へえ」
「なんでも、体重に比例して消化量が増えるそうでな」
ふってくる話で、だいたい何が言いたいのか想像がついた。

「だからわたしは背も胸もちっちゃいから、そんなに消化できないってことか」
「だろうな」
気にしてはいないとはいえ、胸も、についてのフォローは無しかよ。

「仕事に差し支えるような呑み方は、最近はしてないじゃん」
「最近じゃ予報があてにならないからな」
「ミーナになにか言われたの?」
「そうじゃない」
 ミーナがそういう戦闘時以外の風紀のことでとやかく言わないのは解っている。でもあえてミーナの名前を出してみるのは、エーリカのつまらない意地だ。

「じゃあ、私の心配でもしてくれたの」
 悪戯っぽく笑って、からかうように言うと、トゥルーデはちょっと照れくさそうな顔をして目線をそらし、あたりまえだろ、と言った。
 ちょっとだけ胸がぽわんと熱くなって、頭がじんとしびれた。お酒よりきくなあ、とのんきに思った。
 口うるさいけど、基本的にトゥルーデはやさしい。
 そして、それが自分に対してだけじゃないことも、よくわかっている。
 だから、ありがとうとは言わなかった。

「まあ、そんな難しい顔してないで、トゥルーデもちょっと呑みなよ」
 言って、エーリカがねそべっているベッドの上に散らかした服を行儀悪くおしやり、体を起こす。

「なんでそうなるんだ」
「だって、今日新しいのあけちゃったんだもん。古くなるとまずいし、手伝ってよ」
 でないとこれ、私が一本あけちゃうよ?と、中身が半分くらいの残っている瓶を指す。
 なんだか強迫みたいだな。
「そういうことなら、つきあうか」
「グラス、洗ってあるやつあるから」
「この前私が洗ったやつだろ」
「そうそう」
「部屋にグラスだのカップだの、お前は溜め込みすぎだ」
 どうしても余計なお小言を言わずにいられないのねこの人は、と苦笑いする。
「まあまあ」

 トゥルーデだって全く呑まないわけでもないし、弱いわけでもないので、フルボトルサイズの瓶の中身はあっさりと減っていく。
 もうおしまいかあ、と名残惜しげにボトルに貼り付けられた黒猫のイラストを撫でた。
「ワインの味なんてよく解らないが、どこで作っていてもラベルは変わらないな」
「あー」
 名残惜しかったのは、輸送費用のぶんだけ値上がりしたカールスラントワインの中身じゃなくて、こうやってトゥルーデとふたりっきりで、くだらない話なんてしながらお酒を飲む時間のほうだなんてこと、隣にいるこの堅物は考えもそしてないんだろう。
 よくシャーリーがトゥルーデのことを『カールスラントの堅物』なんてからかって、たのしそうに喧嘩してるけれど、エーリカは本気でこの堅物、となじりたくなることが、ある。
 けれど、決定的なことは何も言えないでいる自分にだって責があるのも解っている。

 エーリカは、隣にいる見慣れた横顔を見やる。そういえば、さっき食堂で会ったときより、ちょっと前髪が短い。ほとんど私服というものを持たないので、制服の上着を脱いだだけの格好でちょっと伏目がちにグラスを傾けている。どうせ故郷のことか妹のことを考えているんだろう。隣に自分がいても、この人は自分のことだけを見てくれることなんて無い。
 頬に赤みがさしていて、ふたつに結ったままの髪の間から見えるうなじがなんだか色っぽく見える。ああ、この首筋にキスしたら、ちょっと吃驚したような顔をして、私のことしか考えられなくなるかな。

「エーリカ?」
「あ、うん、そうだね」
 だめだ、と、自分の頭に去来した衝動をふりはらう。そんなことしたら、口もきいてもらえなくなるかも。
 この人は、今隣にいるエーリカが自分の事を好きだなんて、きっと想像もしてないんだから。

「トゥルーデ、前髪、切った?」
「ああ、さっき自分で」
 と、トゥルーデは少し眉間に皺を寄せた。
「だめだな、私はこういうのは不器用で。ちょっと切りすぎた」
 恥ずかしそうに前髪を撫でる。髪なんてわずらわしければ短く切ってしまえばいいのに。こういうところはとても女の子っぽくて、またエーリカの頭に酔いをまわしてくる。
「そんなことないんじゃない」
「いや、なんだかへんだ。落ち着かない」
「そりゃあ、切ったばっかりだもん」
「しかしだな…」
「かわいいよ」
 つるん、と言うつもりの無かった言葉が滑り出す。前髪を切ったその髪型じゃなく、そうやって切りすぎた前髪を気にする、女の子なところがかわいくて。トゥルーデをからかうための「かわいい」じゃなく、ただそう思ったことがあふれただけだから、たちがわるい。
 トゥルーデはちょっと吃驚したような顔をしたあと、むすっとして眉間に皺をよせた。
 ごきげんとりでも冗談でもなかったのに、機嫌を損ねてしまったようだ。
「それにさ、きっとすぐに伸びるよー」
 繕うようにそうフォローをすると、
「…それもそうだな」
 と、前髪を引っ張るしぐさを終了し、グラスの中身を飲み干した。テーブルにコトリ、と置く音がいやに大きく感じる。

「さて、掃討戦も完了だな」
「あ」
 まって、まだここにいてよ。
 そんな言葉にくっつける理由が、こんな時に限って思いつかないのに、手だけはすごい速さでトゥルーデのシャツをつかんでしまった。
「どうした?」
 仕掛けて逃げ出そうにも、ここは自分の部屋だ。空の上じゃない。さっきの言葉が呼び水にでもなったみたいに、気持ちと衝動だけはどんどんあふれてくる。
 なんでもないよ、と笑ってこの白い生地を離してしまえばいいだけのことなのに、そんなことが容易にできない。
 ああいっそ、今言ってしまおうかな。そしたら、トゥルーデはどんな顔するかな。困った顔するかな。ちょっと照れながら、笑ってくれるかな。そうしたら嬉しくて、私しんじゃうかも。
「もしかして、呑みすぎたのか!?きもち悪いのか!」
 シャツを握ったままうつむいたエーリカを吐きそうだと勝手に誤解したトゥルーデは、手が伸ばせる範囲で何か袋状のものはないかと渾沌に目をさまよわせる。
「大丈夫か…?」
ぐ、と両肩をつかまれる。つかまれたのは肩なのに、心臓ごとつかまれたみたいで、びっくりして顔をあげる。普段目にするより、すごく近くに、トゥルーデの顔があって、きれいなはしばみ色の目が自分の顔を覗きこんでいる。
「だ、だいじょうぶ」
「そうか…?」
 言葉に詰まったエーリカに、トゥルーデは尚も心配そうな顔で覗きこむのをやめない。
 やめて、そんな顔でみないで。そんなふうにやさしく心配してくれるのに、今ならかんたんにキスできちゃう、とかそんなことばっかり考えてるんだから。
なんとか気をそらそうと思ったものの、むだだった。近すぎた。

 ギシ、ときしむベッドのスプリングの音にこんなに胸が騒いだのは初めてだ。
「エーリカ?」
 ベッドに押し付けられるような格好で、下から覗き込んでくるまなざしが相変わらず心配そうで、胸が痛む。エーリカが、これから何をしようとしてるのか、全く想像もしてないその姿に、怖気づく。
「お前ほんとに大丈夫なのか?」
トゥルーデの手がエーリカの背中を撫でる。ただ心配してそうしてくれただけなのに、きもちわるいくらいドキドキして、頭の中がしびれる。
「ちがうの」
「じゃあどうしたんだ?」
 どうしたもこうしたも、そんなの上手く言えないから、こんなことになっちゃったのに。そしてこんなことしてる自分に、一番びっくりしているのは、自分のほうなのに。
 どうしてもこの堅物は、懇切丁寧に説明しないと解ってくれそうもない。エーリカは、トゥルーデのシャツの胸元に頭を押し付けた。
 体で解らせてみようか、と思ってシャツの上から、手のひらにちょうどいいくらいのふくらみに手を這わす。
「おまえ、どこ触ってるんだっ…!」
「トゥルーデのむね」
「それはわかってる!」
 じゃあどういうことかさすがのトゥルーデでもわかるよね、と顔を覗き込むと、相変わらず心配そうな目と目があってしまった。こともあろうに、やさしい手が、よしよし、と頭を撫でてくる。
「なんだ、その、あれだ。酔って人恋しくなったんだろ。そういう酔い方のやつもいる、気にするな」
 そういって、ぎゅ、と抱き寄せられた拍子にふわりとせっけんのにおいがして、エーリカは完全に戦意喪失した。この人は、本当に、にぶくて、エーリカの気持ちなんて、想像もしてないんだ。
 解りきった事実を見せ付けられて傷ついた気持ちと、今こうしてやさしく抱きしめてくれること。その二つを天秤にかけて、結局後者が勝ったので、エーリカは遠慮せずに頭をトゥルーデの首筋にじゃれるようにこすり付けた。
「おい、くすぐったいぞ」
「トゥルーデ首よわいのー?」
「知るか!」
「あ、待ってはなれないで。今日は一緒に寝てよ」

そんな言葉が、こんどはなんでかすんなり言葉にできた。こういうとき、アルコールというものはすごく便利な言い訳だ。

「ごみためみたいなお前の部屋で寝られるか」
「じゃあトゥルーデの部屋で寝かせてよ、たまにはぴんとしたシーツで寝たい」
「ならお前、めんどくさがらず掃除を」
「やだよ、めんどくさい」
「お前なあ」
 そんなやりとりをしているうちに、眠くなってきた。大好きな人に抱きしめられながらまどろむ事は幸せなことなのにちょっと泣きたくて、せっけんのにおいに顔をうずめた。

「他の人にこんなことしたら、やだよ」

そう、小さくつぶやいた声は、きっとトゥルーデには届かないんだろう。
なんだかあまくてにがい、うまく言葉にできない気持ちをワインみたいにごくんとのみこんで、やさしくて残酷なぬくもりにくるまれて、エーリカは眠りに落ちた。









fin.


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